『夏にんじん』
砂丘地生まれの鮮やかさ
常備野菜のひとつである、にんじん。新潟県では新潟市や胎内市の砂丘地と、十日町市や津南町の山間部が大きな産地となっている。そのなかで最も栽培面積が広いのが胎内市。JA胎内市エリアでは、夏に種をまいて秋から初冬にかけて収穫する冬にんじん、そして春に種をまいて夏に収穫する夏にんじんが作られている。夏にんじんが出荷されるのは7月のわずかひと月だけ。柔らかく、さっぱりとした爽やかな味わいになる夏にんじんは、暑い季節の食卓にあるとうれしいピクルスやマリネにもぴったりだ。生産量が年々増えているという胎内産夏にんじん。その知名度アップがこれからの課題と語る生産地を訪ねてみた。
夏にんじんの主力品種は「べにひなた」。にんじんは密集させて植えることでまっすぐ育ちやすい
にんじん栽培は発芽が勝負
7月、胎内市の選果場からは日に10トンから12トンの夏にんじんが市場へ出荷されていく。胎内市は11月ごろに収穫される冬にんじんを含め、にんじんの作付面積が約4,100アール(うち夏にんじん760アール)と県内随一。新潟の市場へ出荷され、県内のスーパーなどで販売されている。
胎内エリアでにんじんが栽培されるようになったのは、昭和56年ごろから。冬にんじんが砂丘地に合う品目として取り入れられたという。一方、4月上旬に種をまき、7月に収穫する夏にんじんが作られるようになったのは10年ほど前から。もともとにんじんは暑さに弱い作物だが、品種改良によって夏収穫が可能になり、冬にんじんの生産者が夏も作るように。また、この地域では長年葉タバコの生産が盛んだったが、タバコ需要の減少から廃作が進み、その代替作物としてにんじんが選ばれているというのも、作付けが増えている背景だ。さらに、JA胎内市にんじん専門部会員の小熊彦史さんの家の場合は、これも胎内の特産品であるチューリップ球根から夏にんじんへ転換した。「球根は出荷に人手が必要で、手伝ってくれる人が高齢になってきたことから、5年前に転換しました。にんじんは種まきも収穫も専用機械があって、洗浄や選別もJAでまとめてやってもらえるのでありがたいですね」。
専用の収穫機は、にんじんを掘り起こすと同時に
葉の部分をカットしてくれる
袋いっぱいに収穫
JA胎内市では収量増加に対応するため、平成28年に選果場の処理能力を増強。ここで集約して洗浄、選別、出荷を行っている。出荷前には専用冷蔵庫で真空予冷を行うが、これは芯までしっかり冷やすことで、日持ちを良くするためだ。
にんじんは高温多湿に弱く、梅雨時期などに雨水がたまってしまうと、病気にかかりやすくなる。その点、水はけのよい砂丘地はにんじん向きだ。また、土の温度が上がってくると地中で腐ってしまうため、7月中に一気に収穫する必要がある。そのため、シーズンはわずか1カ月と短い。
栽培のなかで、最も気を遣うのが播種(種まき)から発芽まで。小熊さんは「種をまいてすぐに強風が吹くと種が飛んだり、埋もれすぎたりして発芽しなくなりますし、激しい雨が降ると種が流れてしまいます。天候を気にしながらの播種作業になりますね。にんじんは発芽が一番重要と言われますし、芽が揃うとほっとします」と話す。
フォークリフトで袋ごと冷蔵庫へ
袋ごといったん冷蔵庫で冷やし、洗浄
胎内産にんじんの知名度アップを目指す
生育中には、ほどよく雨が降ることが理想的。砂地は降雨が無ければすぐに乾いてしまうため、そんなときは散水スプリンクラーの出番だ。「砂丘地に農地を持っている農家は、井戸を掘って設備を持っているんですよ」と小熊さん。一方で、雨が降り過ぎると一気に太ってしまい、割れが生じたりしてしまう。自力ではなんともできない天候に気を揉む分、収穫を迎え、市場から求められるサイズに揃ったものを見られたときが一番うれしいと話す。
いまのところ、胎内産にんじんが店頭に並ぶときは「新潟産」と表記される。そのため、胎内がにんじん産地だということが、県内でもあまり知られていないとJA胎内市園芸支援センターの佐藤由弥さんは話す。「以前、テレビの取材を受けたときも、胎内でこんなににんじんを作っているんですね、と驚かれました。作付け面積も拡大しているところなので、今後は胎内のにんじんのブランド力を上げて、多くの人に産地として認知され、売り場でも“胎内産”と表記されるようになるのが目標です」。
人の目による第一選別、第二選別を経て、カメラ選別で規格ごとに分け、箱詰め
おいしいにんじんを見分けるポイントは、表面にツヤがあること、葉の切り口が小さめであること。そして、大切なのは保存法。買ってきたら1本ずつ新聞紙にくるんで冷蔵庫へ。暑さに弱いので、夏の室内に置きっぱなしはNGだ。「土の中にいる環境を再現してあげるのが一番なので、冷蔵庫の中では先を下にして立てて保存してください」と、おふたり。夏にんじんの好きな食べ方を伺うと、小熊さんは幅が広めの短冊切りで揚げる天ぷら、佐藤さんはピクルスとのこと。
今シーズンの発芽は状態が良く、成長も順調。砂丘地で育つと、色が鮮やかになるそうで、この夏はにんじんで栄養はもちろん、彩りからも元気をもらいたいところだ。
真空予冷でしっかり熱を取ってから出荷
園芸支援センター
JA胎内市
園芸支援センター
佐藤 由弥さん
JA胎内市
にんじん専門部会
小熊 彦史さん
お問い合わせ
JA胎内市 園芸支援センター
〒959-2707
胎内市下高田981
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