株式会社アグリおおわし
新潟市南区で水稲とキュウリ・ミニトマトの栽培を行っている「アグリおおわし」。代表の吉田信一さんは平成28年に法人を設立し、周辺農家からの田んぼの委託生産も請け負ってきた。自分たちの代で廃農かと思っていたというが、長男の雅志さんが就農。「親が作る野菜や米のおいしさに改めて気づいた」と、SNSや直販サイトを使った広報・販売に乗り出している。家族一丸となっての新たな挑戦が始まっている。
写真左:代表取締役 吉田 信一さん
おいしさを知ってもらうためのネット販売に挑戦
信濃川沿いの平野に農地が広がる新潟市南区の大鷲地区で、水稲や園芸野菜を手掛ける「アグリおおわし」。吉田信一さん、眞由美さん夫妻、そして長男の雅志さんの3人で運営する家族経営の法人だ。米のほか、ハウス栽培でキュウリとミニトマトを生産。また、管理を依頼された新潟市西区にある畑で、ブランドサツマイモのいもジェンヌも栽培している。キュウリやミニトマトは、周辺生産者と共に36年前から独自に出荷組合を作りイオンに出荷。新潟では相対取引の先駆け的存在だったという。
長男の雅志さんは、農業高校と専門学校を出たものの、当初は農業を継ぐ気にならず、他の仕事に就いた。「後継者がいないなら、自分の代で農業は終わりだなと思っていたんです。自分も若い頃は農業が嫌で建設の仕事をしていましたから気持ちは分かりました」と信一さんは話す。しかし、次第に雅志さんの心境に変化が。「自分は子どもの頃から、両親が作ったものを食べていたので気づかなかったのですが、大人になって改めて“うちの野菜や米、おいしいな”と思ったんです。でも、休みなく頑張って働いている親の姿に、収入が見合っていないと感じて、SNSやネット販売を使って売り方を変えてみようと思いました」。
米はコシヒカリ、こしいぶき、新之助、にじのきらめきを生産
まず注目したのは、キュウリのいわゆる“はねもの”。以前は両親が市に出していたが、高齢になってそれも出来なくなっていた。「ポケットマルシェ」という農家の直販サイトで販売したところ、想像以上の反応があったという。「まず当社の存在を知ってもらうことを目的にしていたので、お得な価格で販売したことも理由ですが、スーパーで買うキュウリと味が違う、甘みがあっておいしい、という感想をいただきました。そこから当社の販売サイトに来て、米を購入してくれた方もいます。今後、そういうお客様を増やしていけたらと考えています」。
10数棟のハウスを活用し、キュウリ、ミニトマトを栽培。見た目からもみずみずしさが伝わってくる
「お客様から直接、おいしいという声を聞けたのはうれしかったですね。励みになります」と眞由美さん。信一さんは「ネット活用は私たちには出来ないこと。そこは本人に任せて自由にやってもらっています」と話す。
災害も乗り越えてきた大切な農地で持続する農業を
雅志さんが発信しているSNSでは、趣味の音楽を活かして「アグリおおわしのテーマソング」も披露。「やるなら面白い方がいいかなと思って、作ってみました」と雅志さんは笑う。
アグリおおわしのミニトマトも味がいいと評判の品だ。おいしさを生む秘訣は、やはり土づくりだと信一さんは話す。「重要なのは、土着菌の自然の力を十分に引き出すこと。有機質の肥料を使って、土中の微生物が活性化するようにすることが大事です。でも、良い菌だけにしてしまうと、失敗するんです。よくしたもので、バランスが大事なのでしょうね。自分なりにいろいろ考えて、失敗しながら学んできたのですが、その当時、親が私のやることを許してくれていたんですよね。あれは、今思ってもありがたかったなと思います」。若い者にはのびのびやってもらうというのが、吉田家の伝統なのかもしれない。
冬場はハウス内でホウレンソウも栽培している
毎月「アグリおおわしんぶん」を手作り。話題は作物のことにとどまらず子育てやおすすめの音楽など幅広い。
「身近に感じてもらえたら」と雅志さん
親戚から、西区の農地の管理を頼まれたのをきっかけに始めたサツマイモ栽培は「手がかからないかと思ったら意外と大変で、最初は苦労した」そうだが、しっかりと冬場の収入源となっている。焼芋にするとしっとり甘いサツマイモは、こちらも通販で人気だ。
自社販売については、今後も出来る範囲で伸ばしていくことを目指してはいるが、あくまでもJAやイオンとの取引を土台として、ボーナス的な取り分として考えている。「一番大切なのは、持続する農業であること。この地域は水害や雪害など、災害にも遭ってきた土地です。そうしたことを乗り越えてきた農地を、守っていかなければいけないと思います」と話す信一さん。大鷲という地名を社名に掲げたときの気持ちを「ちょっと気負いすぎたかもしれないです」と照れくさそうに振り返ってくれたが、その思いは親から子へもしっかり受け継がれていくはずだ。
事務所外観
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