稲作革新で守る地域農業

農事組合法人ファーマーズ稲

高田平野が広がる上越市稲にあるファーマーズ稲は、平成18年の設立以来、徐々に栽培面積を広げ、今年は73ヘクタールの水田での米づくりと、6ヘクタールでの枝豆づくりを行う農業法人だ。農業の担い手が減っていく中、将来の大規模農業に対応するべく、今年を「稲作革新の年」としてスマート農業や新技術を導入。江戸時代からの歴史ある農地を未来につなぐ挑戦が始まっている。

  • 写真右:代表理事 丸山 吉夫 さん

江戸時代から続く高田平野の農地を担う

4月初旬、上越市高田地域の郊外に広がる田園地帯にあるファーマーズ稲を訪れると、米の播種作業が進められていた。作業場からは妙高山の美しい山姿を望むことができる。スタッフの女性が、山を指さして「跳ね馬が見えるでしょう。ほら、あそこ」と指を指しながら教えてくれた。妙高山の跳ね馬の雪形は、昔からそれが現れると農作業を始める、と農家の目安にされてきたもの。雪が多かった今年の冬を越え、うれしくも忙しい季節が巡ってきた。
ファーマーズ稲が米づくりを行っている農地は、江戸時代から受け継がれてきた場所だ。広々とした水田を潤している中江用水は、農民の声を受けて高田藩によって整備されたもので、長野県の野尻湖の水を池尻川を通して取水し、高田平野に送られている。「江戸時代から続く歴史ある用水で育んできた美しい田んぼを守っていくことが、我々のひとつの使命だと思っています」と、代表理事の丸山吉夫さんは話す。

  • 撮影のために、と残雪の山々を背景に農機がかっこよく並んでいた。高田平野は、高田藩による用水整備で新田開発が進んだ。中江用水と並んで流れる上江用水は世界かんがい遺産に認定されている

  • 品種別に育苗箱に種もみを撒いていく作業。米づくりの最初の作業だ。今年は4月7日から播種作業を順次開始した

大規模圃場整備事業をきっかけに、平成18年に有志が集まって14ヘクタールから始まったファーマーズ稲。年々耕作面積が拡大し、令和7年は稲作が73ヘクタール、枝豆が6ヘクタールとなった。当初は100ヘクタールまで増やせる体制を目指してきたが、担い手が減り、近隣の法人の解散が始まるなど、状況が変化していくなかで、この先はその倍の農地を集積しなければ、この地域の農業を保っていけない、と丸山代表は見ている。「少人数で大きな面積をやっていくとなると、新しい技術を取り入れてやらざるを得ない。そこで、今年から新しい農法やスマート農業を取り入れ、“稲作革新の年”と捉えています」。
いま職員は丸山代表のほか、30代が1名、40代が2名。これまでの農業のノウハウを見える化し、長年経験を積んできたものと変わらない農業を実現できる体制を作り、次世代へ引き継ぐことが自分たちの仕事だ、と丸山さんは話す。これまで畑の地図や栽培計画、農作業のスケジュールや、肥料計画など、全てをファイリングして情報共有してきたが、今年度からはそこにAI技術や先端農法が加わる。

  • スケジュールや農地マップ、栽培計画などをまとめたファイルは土地の所有者にも共有している

スマート農業の導入で200ヘクタールが見えてくる

挑戦する新しい農法は乾田直播だ。昨シーズンから増えた分の田んぼ10ヘクタールを使って試験栽培を行う。乾田直播は水を張らずに田んぼへ直接種まきを行い、そこで発芽させるというもので、育苗、田植えが不要になり、作業を効率化できる注目の農法だ。「これまで踏み切るチャンスがなかったのですが、今年、規模が広がることで、昨年の収益を確保しながら新しいチャレンジができる年だと思って挑戦することにしました」。
また、衛星データやAIを活用した、栽培管理支援システム・ザルビオを導入。タブレットの画像によって圃場の地力や生育状況がひと目で分かるほか、肥料のタイミングや量をAIが分析してくれる。生育ムラを解消し、効率的に収量アップが期待できるシステムだ。ここにGPSを活用した農機の効率的な運行や、ドローンによる肥料散布なども加わる。「無駄な肥料が削減でき、倒れない丈夫な稲を作ることで収穫量の安定化を図れると思っています。経験がなくてもやれる農業を目指したいですし、これからは経験が却ってハードルになるような、そんな時代になるのかなとも感じています」。

  • 水に浸けておいた種子を脱水し、機械に投入

  • トレイを流すと、土の上に種が播かれ、水をかけながらさらに土をかぶせる

  • 品種ごとに積まれ、育苗ハウスへ

田植えを終え、7月になると枝豆の季節が到来。作業場の一角に直売所を設けていて、常連さんやのぼり旗を見かけた人が、採りたての枝豆を購入しに訪れる。1カ月の枝豆シーズンが終わると、すぐに稲刈りの時期へ。収穫が終わったときには達成感がありますか?と尋ねると「達成感というより安心感。無事に収穫できた、今年も無事に終わった、という感じですね。ただ、すぐに反省を踏まえて次の年の計画を組んでいくので、休む暇もない、というのが正直なところです」と丸山代表。地域農業を担っている責任感がにじむ言葉だ。江戸時代から続く農地を、最新のスマート農業で次代へ。これからの時代の農業の姿がそこにある。

  • 枝豆の時期には直売を行う。通り沿いに立つのぼりが目印

お問い合わせ

農事組合法人ファーマーズ稲

〒943-0117
上越市稲558番地
TEL:025-528-7169

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