雪国の冬の味をいつまでも

『体菜』

郷愁を呼び起こす伝統野菜

体菜は新潟の郷土料理「煮菜(にな・にいな)」の材料になる青菜だ。煮菜は塩漬けした体菜を塩抜きしてから油で炒め、だし汁と調味料で煮る料理で、冬に青物が手に入らなくなる雪国の味。煮菜を作るときの独特の香りは冬の訪れを実感させ、また人によっては幼い頃の食卓の記憶を呼び覚ます存在のようだ。かつては晩秋になると各家で体菜を漬けた。その風景はあまり見られなくなったが、煮菜は冬の味として今も家庭や飲食店で親しまれている。風土が生んだ食文化を守っていく体菜の生産農家を訪ねてみた。

  • special-img

長岡野菜のひとつに数えられる大切な存在

「体菜が特集される日が来るとは思わなかったねぇ」。体菜を生産している長岡市のナカムラ農産を訪ねると、社長の中村文和さんと栽培を担当している石田勝巳さんはそう言いながら笑った。
体菜は新潟の冬の郷土料理の煮菜に使う青菜で、もともとは各家で自分たちが食べる分を栽培し、塩漬けにしていた。それが中越地震の後、山古志地域で商業的な栽培が始まり、需要が拡大してきたのを受けて長岡市内でも作付けが始まった。ナカムラ農産が手掛け始めたのも今から10年前だ。JA越後ながおか園芸特産課で体菜を担当する本間明美さんは「現在は山古志、長岡、栃尾などで6軒の生産者さんが体菜を作っています。長岡野菜のひとつでもあり、これからも作り続けていただけるように、私たちもサポートしていきたいです」と話す。ここ数年、新潟市での販売が伸びていることから生産量も増加。令和3年度は14トンの出荷予定があり、昨年より2トン増える見込みだ。

  • ナカムラ農産では体菜を25アールで作付け。長岡地域で栽培されている体菜は「二貫匁体菜」という品種だ

体菜が特殊なのは、生での販売はごく限られ、基本的に塩漬けで出荷されるということだ。ナカムラ農産でも栽培から塩蔵まで手掛けている。それもあって、消費者が塩漬けされる前の体菜を目にする機会は少ない。
収穫直前の体菜は、高さ約60センチメートル、重さが約1キロとかなりの大きさだ。畑にすっくと立ち、白い芯の部分はふっくらと厚みがある。体菜は明治初期に政府が中国から導入し、広がったもの。一般的にはタイサイと呼ばれるが、新潟ではタイナと呼ぶ。繊維質が多いことも塩蔵向きだったようで、特に新潟の雪の深いエリアで、冬の保存食として多く作られてきた。
ナカムラ農産では、枝豆を収穫した後の畑で、畝を作り9月上旬に種を直播。収穫は10月15日頃からだ。石田さんは「気を遣うのは発芽のとき。注意するのは虫害と台風です。台風に遭ってしまうと葉が傷んでしまい、病気になりやすくなります。収穫時期は、もう少し遅くてもいいのですが、そうすると霰が降る可能性が増えます。霰に当たると葉が穴だらけになってしまって品質が落ちるので、早めの時期の収穫にしています」。腰をかがめながら約1キロの株を次々と収穫していくのは、なかなかの重労働。そして休む間もなく、塩漬け作業に入っていく。

煮菜を作る香りが冬の記憶と重なる

フォークリフトに山と積まれた体菜は、洗浄後まず粗漬けをする。2、3日漬けると、水分が出て容積は半分になる。それをもう一度洗い、茎の間の土などを取った後、本漬けをして、約1週間で出荷できる状態になる。これをナカムラ農産では11月から2月にかけて出荷していく。

収穫した体菜の重さを計って塩の分量を計算。1トンの桶に塩と体菜を交互に積み重ねて粗漬けする

重しは段々軽くしていき、右は最も軽い本漬けの最終段階

重しは段々軽くしていき、写真は最も軽い本漬けの最終段階

この漬け菜、塩分濃度は20パーセントという高さ。これも冬の間、長く保存するためのポイントだ。もちろん、そのままでは食べず、まず塩抜きをするのだが、水に漬ける程度では抜けないので、熱湯で何度か塩抜きをする。この時漂うにおいが独特で、香りで「今日のおかずは煮菜か」と分かるそうだ。石田さんは「子どもの頃は祖母が作ってくれましたが自分は苦手で。祖母からは“大人になったらおいしさが分かる”と言われていました。ここで働くようになって中村家の煮菜を食べたとき、“ああ、ばあちゃんの言っていた通りだ”と思いましたね」と、煮菜への思いを語る。

冬場の袋詰め作業はかなり辛い。「塩水なので水の冷たさが一層沁みます」

そして「いま生産している方も年配の方が多いし、農家が1軒でやっていくのも限界がある。それでも長岡野菜でもある体菜の伝統を無くすのはもったいないので、買ってくれる人がいる限りは頑張っていきたいですね」と続けた。
新潟の人々にとって身近で、それゆえに目立たない存在だった体菜。しかし長岡の割烹で聞いた話では、最近の発酵食ブームの影響で、煮菜に興味を持つ若い世代も少しずつ増えているそうだ。2月7日は「煮菜の日」。最近では塩蔵の体菜だけでなく、塩出しをした体菜も販売されているので、ぜひ手に取り、煮菜を作ってみてはいかがだろうか。

special-img

ナカムラ農産株式会社

石田(いしだ) 勝巳(かつみ)さん

special-img

JA越後ながおか
園芸特産課

本間(ほんま) 明美(あけみ)さん

塩漬けの体菜はJA越後ながおか 農産物直売所 なじら~て で購入できます

  • ナカムラ農産 外観

お問い合わせ

JA越後ながおか 園芸特産課

〒940-2025
長岡市高瀬町浦田1903
TEL:0258-27-1880 
FAX:0258-27-2122

読者プレゼントがあります。
応募フォームからご応募ください

応募は終了しました