もっちり大粒、秋の味

『弥彦ぎんなん』

木を受け継ぎ、味を繋ぐ

新潟県内には村松(五泉市)や小国(長岡市)など、いくつかのぎんなん産地があり、弥彦村もそのひとつ。「弥彦ぎんなん」の栽培が始まったのは2000年ごろからで、産地としては後発ながら、大粒でもちもちとした食感で品質が良いと、市場からの評価も高い。ぎんなんと言えば、イチョウが黄色く色づくころ、落下している実を拾うというイメージだが、農作物としての栽培や収穫はどのようなやり方をしているのだろうか。ぎんなんの収穫の時期を迎えた弥彦村の圃場を訪ねてみた。

ぎんなん産地二十五年の歩みをその先へ

「弥彦ぎんなん」の栽培が行われているのは、彌彦神社からもほど近い井田丘陵(矢作丘陵)。なだらかな斜面の一帯にはブドウ畑、そしてイチョウの圃場が広がっている。弥彦村ぎんなん部会の部会長を務める渡邊一嘉さんの畑では、収穫作業が進められていた。訪ねたのは10月。イチョウの葉はまだ緑色だ。「じゃあ、始めますね」と言って、渡邊さんはおもむろに木に登り、ゆさゆさと枝を揺らして実を落とし始めた。予想外の収穫方法にびっくりである。「弥彦では9月末から10月中旬までが収穫の時期。早い時期に収穫したものは、美しいエメラルドグリーンをしているんですよ。米の収穫後、早めに取り掛かっていきます」。

  • 斜面に広がる圃場。収穫しやすいよう樹勢を整えることも大事。「上りやすい枝を残しておくことも意識しています」と渡邊さん

  • 木に登って枝をわさわさと揺らし、実を落とす

気になるのは、独特の臭いを放つ実の部分の処理だ。収穫しておいた実を一か所にまとめると、登場したのが高圧洗浄機。水圧で皮や実を飛ばすのだ。洗浄機を操っていたのは、これからぎんなん栽培を始めるための指導を受けていた赤星和貴さん。今年から本格就農し、枝豆とぎんなんに取り組んでいる。「弥彦では赤星さんのほかにも若手の生産者が加わってくれて、圃場の維持ができています。ぎんなんは収益性の高い農産物なので、冬場の収入を繋ぐ品目として勧められます」とJA新潟かがやき弥彦アグリセンターの齋藤章人さんは話す。

  • 高圧洗浄機で皮を飛ばす作業。産地によってさまざまなやり方があるそうだ

その後、ぎんなんは塩水につけて浮いたものを除き、天日で2日ほど乾燥させる。乾いたものは殻がつやつやとして白く、とてもきれいだ。集荷されたぎんなんは、小袋に包装され「弥彦ギンちゃん」の名前で市場へ。10、11月は関東方面、11、12月は新潟県内での需要が高い。弥彦ぎんなんは大粒で、品質が良いと評判で、市場価格も高めで安定している。日照が良い傾斜地での栽培に加え、樹種も功を奏した格好だ。

  • 選別機にかけて大きさをチェック

洗い終わって天日干しされるぎんなん。乾くと艶が出て白さが際立つ

  • 大粒の「弥彦ギンちゃん」はぎんなんの中でも高値で取引されている

弥彦でぎんなん栽培が始まったのは25年前。昭和45年に井田丘陵にできたブドウ団地で耕作放棄地が目立つようになり、その有効活用として選ばれたのがぎんなんだった。「当時、手がかからなくて収益性の高い作物としてぎんなんが注目されていました。ちょうど大粒品種の喜平が出てきて、それに統一して、16名の生産者で苗木を植えたのがはじまり。うちの畑のイチョウは父が植えたものです」と渡邊さんは話す。

収穫を安定させる剪定と受粉作業

弥彦ぎんなんの生産量は年平均2トン。しかし、ぎんなんは表年、裏年が交互にあり、収穫量の変動が大きい。その差を小さくして、生産量を安定させることが一番の課題だという。そのための大事な作業のひとつが受粉。イチョウは木に雄雌があり、雌の木に花が咲くころ、雄の木の花粉が風にのって飛んできて受粉となるが、確実に結実させるにはやはり人工授粉が必要なのだそうだ。「特に裏年は花自体が少ないので、咲いたものに確実に実をつけたい。雄の花を採集して温度をかけると花粉が採れるんです。それを雌の木に受粉していくのが春の仕事です」。

  • 雌花。雄花から採った花粉を受粉させていく

  • 7月頃には青々とした実が成っている

心配ごとは霜。花が咲く4月の初頭に遅霜があると、花が枯れてしまうという。令和3年は霜害で収穫量が激減したそうだ。
実を多くつけるため、剪定作業も欠かせない。日当たりが良くないと花芽が付きにくく、着いたとしても枯れてくるため、冬に枝を整えていく。
弥彦ぎんなんが始まって25年が経ち、初代の生産者たちも年を重ねてきた。「苗木を植えて収穫できるまで約5年かかりますが、その後の木の寿命は長い。そこで、生産者が栽培を継続できなくなった畑を赤星さんのような新規就農者や、若手農家に受け継いでもらっています」と齋藤さん。渡邊さんも「若い人が入ると我々も励みになりますね。いま、弥彦村では旧役場跡にある大イチョウの木が観光スポットになっているんです。イチョウつながりで、弥彦ぎんなんも一緒に弥彦の名物になっていってくれたらうれしいですね」と話す。
そんな渡邊さんおすすめの食べ方は塩味のぎんなんおこわ。香り高いぎんなんの味わいで、今年も秋の到来を感じたい。

  • 県内外へ出荷されていく

  • 井田集荷場 外観

special-img

弥彦村ぎんなん部会 部会長

渡邊 一嘉さん

赤星 和貴さん

special-img

JA新潟かがやき 弥彦アグリセンター

齋藤 章人さん

お問い合わせ

JA新潟かがやき 弥彦アグリセンター

〒959-0305
弥彦村大字矢作491
TEL:0256-94-4114 
FAX:0256-94-4169

読者プレゼントがあります。
応募フォームからご応募ください

応募は終了しました